原発について

第2章 原発なくても電気は足りる!

–必要なのはピークを逃がす工夫だけ–

◆1.「計画停電」は何のため?

大震災直後の3月14日から、東京電力は「計画停電」と称して、時間帯で分けて地域ごとに電気の供給を止めた。このおかげで電車は止まる、会社は通常の営業ができない、病院ではいつ電気が止まるかわからないので手術もできない。信号が止まったために交通事故で亡くなった人までいた。福島第一原発で稼働中だった1号機~3号機が止まっただけで、こんなにも電力が足りなくなって、社会が大混乱に陥ってしまうんだ……やっぱり原発って必要なのネ、と、多くの人が思ってしまっただろう。

でも本当にそうなのかな?

原発は13か月~24か月に一度、点検のために完全に止めることになっている。そうした定期点検や故障のときにも電力が供給できるように、全ての原発にはバックアップ(予備)としての火力発電所や水力発電所が用意されているんだ。

特に水力よりも出力調整のしやすい火力発電所は、いざという時のために余力をたくさん残している。火力発電所は48%しか稼働していないので、この稼働率を63%まで引き上げるだけで、原子力発電は無くても、全国の電気が足りてしまうんだよ。

【小出裕章氏講演資料より抜粋】

この図は日本の発電能力の推移をグラフにしたものだ。見ての通り、実際の需要は水力と火力の発電能力の中でほぼ収まっているね。

だから原発が使えなくなったからといって、本当なら電力供給に問題はない。2007年の中越沖地震で柏崎刈羽原発が7機全部止まったけれど、停電はしなかった。電力消費の多い夏場だったにもかかわらず、だ。2003年に福島原発でトラブル隠しが発覚し、東京電力が所有する原発17機の全てが止まったときも、やっぱり停電はしなかった。だから、福島の3基くらい止まったって、本当はどうってことないはずだ。

ただし3.11では、地震のせいで、火力発電所も損傷した。電力供給量が落ち込んだのはそのせいでもあるわけだが、火力発電所の損害のことはずっと後になって、小さな扱いで報道されたに過ぎなかった。これは「原発止まる」=「電力不足」という印象を、みんなの頭に植え付けるための策略だったんじゃないだろうか。

しかも、この電力不足も、本当は解消可能なものだった。上のグラフをもう一度見てほしい。「自家発電」というのがあるね。これは、企業が自社で発電している分の電力だ。石油化学や鉄鋼メーカーなどまとまった規模の自家発電設備を持つ事業者を特定規模電気事業者(PPS)と呼ぶ。このPPS約50社が参加し、翌日に使う電力を売買する市場がある。日本卸電力取引所(JEPX)だ。地震の後、東電はこの市場から電力を買おうと思えば、簡単に買って融通することができた。ところが、このJEPXの東京市場は、3月14日に閉鎖されてしまう。送電網を独占する東電が「スポット市場を開くと単価が暴騰する」という不可解な理由で拒否したからだ。送電線は使えたのに、東電は市場からPPSの電気を調達することを拒否して「計画停電」を選んだんだ。傍迷惑な話だね。

それに、「計画停電」が早朝から深夜まで行われた、という点もおかしい。電力の消費量は1日のうちで大きな変動がある。深夜から早朝にかけては少なく、会社が始まる午前9時くらい頃から急増し、午後1時から3時頃にピークを迎え、会社が終わる午後5時頃から急激に少なくなっていく。

【出典:エネルギー白書2010「夏季1日の電気の使われ方(年間最大電力を記録した日)」】

だから、早朝や夜間は、電気は大幅に余っているはずなんだ。部分的に停電させることで昼間の電力が足りるのなら、消費が激減するはずの早朝や夜間には停電なんかまったく必要ないはずだよ。それなのに早朝も夜遅くも「計画停電」は実行された。電力需要の多い夏でもないのにね。

こうして考えると、社会を混乱に陥れたあの「計画停電」という名の無計画停電は「原発がないと電力不足で困るよ」と国民に思い込ませるための、単なる嫌がらせだったとしか思えない。原発止まっても電気が足りている、ってことが国民にバレてしまったら困る人たちがいるからだ。

福島原発の事故以来、原発の安全性をよく確認しないとまずい、という話になって、定期点検に入った原発は「ストレステスト」に合格しないと再稼働できないと決まった。そのため、各地の原発が順々に止められてきた。2012年3月15日現在、全国に54基ある商業用原発のうち、稼働しているのはたったの2基しかないんだよ。

でも2011年のクリスマスもこれまでと同じように、街はイルミネーションで華やかに飾られていたよね。みんなももう気づいてると思うけど、このまま原発が全て止まっても、電力は足りているんだ。

◆2.電気不足の可能性は、真夏のピーク時だけ

先ほどのグラフで、火力と水力だけでは電力をまかないきれていない時期がごくわずかあったのに気付いたかな。過去最高の電力需要は2001年7月24日の1億8269万kW。でも、こうした電力需要のピークというのは、夏にしか来ない。電力不足に陥る危険性があるのは、みんながクーラーを使う、真夏の特別に暑い日の、一番暑い時間帯、午後1時から3時くらいまでの時間帯だけなんだ。

【出典:エネルギー白書2010「1年間の電気の使われ方(10電力計)」】

電気というのは溜めておくことができない。今使っている電気は、今つくっている電気だ。だから、どんなときにも供給不足に陥らないよう、年間でほんの数日、わずか数時間のピークにあわせて、発電所が次々つくられてきた。

電力供給が需要ギリギリというのは危険なので、少しは余裕を見ておく必要がある。それを考えると、現状では原発なしだとピークにやや余裕不足なのは否めない。

では、真夏のピークにも原発なしで電力不足に陥らずに済む方法を考えてみよう。

あまり知られていないが、電気料金は家庭用と産業用では料金体系が違っている。簡単にいうと、家庭用は多く使うと割高になる。

一方産業用では多く使うほど割安になる。

大口の顧客は「需給調整契約」というのを結んでいて、この契約にはいくつかのパターンがあるが、基本的には「もし供給が不足するような事態が生じたら、その時は供給量を減らします。その代わりに電気代は安くします」というものだ。双方合意の上でわざわざこんな契約を結んでいるんだから、もし本当に電気が足りなくなれば、約束どおりに企業が使っている電気をカットすればいいだけの話だ。そういう契約なんだから、企業が文句を言える筋合いはないよね。

ちなみに電気というのは家庭用が4分の1、産業用が4分の3という割合で使われている。夏場のピークに限ってみれば、家庭での使用はわずかに9%。だから、家庭でいくら節電しても、実はほとんど意味はない。企業が夏場のピーク時に、ちょっとだけ使用を抑えてくれれば、それで済む問題なんだ。

もし「それは困る」と言われたら、電気を多く使うほど割高になるように料金体系を変えればいい。そうすれば企業は誰に何を言われなくても、自主的に節電に励むだろう。

あるいはアメリカの電力会社が使っているこんな方法はどうだろう。電気の配線を、エアコン用とそれ以外とに分けておく。そして、真夏のピーク時、電力が足りなくなりそうだな、と判断したら、12のグループに分けた家庭や事業所で、エアコンの電気だけを順番に止めていく。1つの場所でエアコンが止まるのは1時間にわずか5分。そんな短時間ならば、誰もエアコンが止まったことにも気づかない。それでもピークを抑えて、電力不足を回避することができるんだ。

頭の使い方次第で、ピークを抑える方法はいくらでもありそうだね。

電気事業連合会「平成22年版 電気事業便覧」
原発を除いた供給力 最大需要電力
北海道電力 624 547
東北電力 1,321 1,380
東京電力 5,608 5,500
中部電力 3,059 2,637
北陸電力 622 526
関西電力 2,912 2,956
中国電力 1,425 1,135
四国電力 596 550
九州電力 1,777 1,669
沖縄電力 224 144
単位:万kW

上の表を見てもらえばわかる通り、東北電力と関西電力以外は、原発を除いた供給力が最大需要電力を上回っている。東北電力と関西電力の不足分もわずかなので、他社からの電力の融通、PPSからの買い上げ、需給調整契約の活用などで十分カバーできるレベルなんだ。だから今すぐ原発を全部止めても全然問題ないんだよ。

【脱原発ポスター『電力足りてます』】

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