原発について

第4章 どうして再生可能エネルギーは普及しない?

— 問題は国の目指す方向性 —

◆1.問題は、どこを目指すかだ

原発ペンタゴンの頂点にいるのは国=政府だ。政府がどの方向を目指すのかで、国のエネルギー事情は、まったく変わってくる。

日本政府がこれまでずっと原発を推進しようとしてきたから、情報もそれに沿ったものしか日本のマスコミでは流れない。テレビで「自然エネルギーなんてオモチャだ」とか「原発の代わりにはならない」なんて言っている人たちが多いのも、それが理由なんだ。

ヨーロッパでは、すでに再生可能エネルギーを100%にしようと動き出している。世界的にみると、風力発電はものすごい勢いで伸びてるし、太陽光も順調に伸びている。逆に、原発はどんどん少なくなってきているよ。

米国のワールドウオッチ研究所によれば、2010年、世界の発電容量は風力や太陽光、バイオマス、小規模水力の合計が3億8100万kWで、原子力発電の発電容量は3億7500万kW。すでに再生可能エネルギーが原発を上回っているんだ。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も「太陽光や風力などの再生可能エネルギーによって2050年には世界のエネルギー需要の最大77パーセントを満たすことができる」と報告書で発表している。

2010年のクリーンエネルギーへの投資は世界全体で前年度比30%増(NGOピュー・チャリタブル・トラスツによる)。この10年で6倍にも増えている。

国連の専門機関WIPO(World Intellectual Property Organization)の報告書によれば、化石燃料を代替するエネルギーに関連した特許は、日本のものが55%を占めるそうだ。太陽光に至っては実に68%もの特許を日本が持っている。

世界で使われている再生可能エネルギーの機器は日本製のものが多いにも関わらず、日本国内で使われていないのはもったいないね。日本は再生可能エネルギーの可能性も技術も十二分にあるのに、なぜ普及してこなかったかといえば、それは単にやる気がなかっただけなんだ。

政府が進むべき方向さえきちんと定め、みんなでそれに向かって努力をすれば、可能性はいくらでも開ける。その証拠に、スウェーデンでは再生可能エネルギーの割合が、34%にも達しているし、ニュージーランドでは37%、ノルウェーでは46%、アイスランドに至っては83%にも達している(2009年のデータ。IEA;Renewables Information2010)。対する日本は、わずか3.2%だ。

再生可能エネルギーの推進を目指してきた国々と、原発推進の道を歩んできた日本。その方向性の違いが、このエネルギー事情の違いを生んでいる。大切なのは政府が、そしてボクたちが、どの方向に向かって進むかなんだ。

◆2.国のエネルギー政策を監視しよう

これまで原発推進一直線で来た日本政府だが、そんな状況に一石を投じたのは菅政権だった。菅政権は、原発事故後さまざまな不手際も多かったが、その一方で評価できる功績も残した。ひとつは、断層の真上にあって首都圏にも近い浜岡原発を止めたこと。ここで地震があれば、首都圏はアウトだからね。そしてもうひとつが、2011年8月26日に「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」を成立させたことだ。

もしキミが、バイオマス、風力、(中小)水力、地熱といった再生可能エネルギーで発電するぞ!と決めて、小さな会社をつくったとしよう。でも設備投資にはお金がかかる。そのお金がちゃんと回収できるのか、不安だね。新しい技術ははじめは値段が高く、普及するにつれて安くなっていくのが普通だ。だから、せっかく太陽光発電や風力発電の設備を整えて発電をはじめても、後から起業した人たちのほうが安い設備投資で開業できて、安く電力を売るようになれば、自分は価格競争に負けてしまい、投資を回収できないかもしれない。そんな不安をなくしてくれるのが、世界で広く行われている「固定価格買い取り制度(Feed in Tariff、略して FIT)」だ。これは小さな新エネルギー会社が設備投資をする際「今後ウン十年間、1キロワット当たりいくらで電力会社があなたの電力を買い取ります」と約束してもらえる、というものだ。この電力の買い取り価格(Tariff)は、電力会社が決めるのでなく、法律で決められる。この約束があれば、回収のめどがつくから設備投資をするのも安心だね。

技術が進歩して設備が安くなれば、この価格は見直されるが、見直された新しい価格は、新しく設備を導入する人だけに適用される。つまり高い設備投資をした人は高いお金で電力を買い取ってもらえ、安い設備投資で済む人は、それにあわせた安い金額で電力を買い取ってもらえる。公平で、リスクが少なく、安心して投資できるから、再生可能エネルギーの普及促進効果が最も高いとされているんだよ。この制度があるおかげで、世界各国では再生可能エネルギーが日本よりずっと広く普及してきたんだ。

この固定価格買い取り制度の日本版が、2012年7月に施行予定の「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」だ。法律ができたのはいいが、実はまだ価格などの詳細が決まっていない。仏つくって魂入れず、にならないよう、ボクら国民がちゃんと、注意して見張っていかないといけないんだ。

この価格や買取り期間を決めるための調達価格等算定委員会のメンバー5人の人事案が2011年11月頃に国会に提出された。本来なら中立の立場で議論が進められるべき第三者委員会にも関わらず、5人のうち3人までもが、再エネの普及に従来から否定的な立場の人物だったんだ。

そんな人事がどうやって行われたのか、与党の民主党議員でさえ知らない人が多く、決定のプロセスは全くのブラックボックス。これは民主主義や議会政治という国家の根本に関わる由々しき事態ということで、市民団体が抗議し、この人事案に強く反対する議員たちも働きかけを行った。そのおかげでこの人事案は12月にいったん見送りになったんだが、今後どういう人物がこの委員会に選ばれるか、十分注意しておきたいね。

どうすれば国民の負担をできるだけ抑えて再生可能エネルギーを増やしたり、消費エネルギーを減らしたりできるか、みんなで真剣に考えれば、いいアイディアはいっぱい出てくるんじゃないかな。そのためには、日本にとって一番よい方法を、公平中立な立場で考え、議論し、立案実行させることのできる人を応援していかなくちゃね。

◆3.再生可能エネで地産地消を

原発から再生可能エネルギーへの転換を目指すに当たり、その先進国ドイツのエネルギー事情を参考にしてみよう。ドイツでは、1990年代から、将来的な原発全廃を前提に、CO2削減、エネルギー消費削減、再生可能エネルギー普及に取り組んできた。1986年のチェルノブイリ原発事故で、ドイツでも甲状腺がんの発生率が高くなったり、奇形児が生まれる率が高くなったり、数々の市民の健康被害が報告されたからね。それからの20年間で、ドイツは30%も経済成長しながら、エネルギー消費は6%、CO2は26%も削減してきたんだよ。一方この間、日本の経済成長は10%マイナスなのに、エネルギー消費は6%増加してしまっている。

なぜドイツでは、そんなことが可能だったのか。その理由は、エネルギー効率をあげたこと、そして送電ロスを減らしたことにある。

原発から発生するエネルギーのうち、家庭や企業に届くのはたったの3割、発電効率は30%といわれている。原発を安定して稼働させるためには冷却水が必要で、これはせっかく発生させた熱というエネルギーを無駄に捨てていることになる。エネルギー効率をあげるために有効な方法は、発電時に発生する熱も同時に利用すること。ドイツでは、火力発電所で発生した熱も電気とあわせて利用する「コージェネ」を積極的に採用するなどして、エネルギー効率をあげた。

また、危険な原発は人の少ない過疎地に建てるのが普通だから、遠い大都会まで電気を送る間にだいぶ減ってしまうという問題もある。この送電ロスを減らすための有効な方法は、送電距離を短くすることだ。そのためには、遠いところに大規模な発電所がひとつポツンとあるよりも、中小の発電所があちこちにあったほうがいい。ドイツでは中小規模の発電所からの電力を大規模な発電所からよりも高く買い取るようにして、中小の発電所が各地にできるよう誘導してきたんだ。

送電ロスを減らすため、エネルギーもなるべく地産地消するのがいい。そのためには中小の電力会社が各地にたくさんある方が好都合だ。都市近郊につくろうと思ったら、危険な原発では無理。その意味でも、これからは再生可能エネルギーが重要なんだ。

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