増税について

第4章 こうすればできる!景気回復

— 「財政出動」で一石何鳥も —

◆経済成長させるには

経済成長させる=景気を良くするためには、さっきの景気後退のサイクルと逆のことをすればいい。

つまり、まずは世間の人たちの財布の中身を増やすこと(=可処分所得を増やすこと)が重要だ。懐具合がよくなれば、より多くモノを買うようになる。買う人が増えれば、売る人も、つくる人も収入が増える。すると、みんなの懐具合が良くなってくる。

さて問題は、どうやったら世間の人たちの財布の中身を増やせるかだ。

今度はGDPを手がかりに考えてみよう。経済成長は「GDPを増やすこと」とも言い換えることができるからね。

この4項目の中で増やせそうなものはないかな。

まず(1)の民間支出だが、デフレ不況下で、いくら民間に消費を呼びかけても、消費が増えることはない。次に(2)だが、企業に設備投資をしてほしいと頼んでも、デフレ不況下では業績が伸びる見込みはないので、これまた増えない。最後の(4)の経常収支 (輸出-輸入)はGDPのわずか1.14%(2010年度)。輸出黒字が増えればGDPを増やせるが、世界は大恐慌に突入しつつあり、当分は輸出黒字が増える見込みはない。

となると、GDPを増やすには(3)の政府の支出を増やすより他に手はないということになる。

減税も財政出動の一種だし、国民みんなに給付金を配布することも、あるいは公共事業で雇用を増やすのも、財政出動だ。

政府が震災復興のための工事をする。あるいは介護や保育などの福祉分野に人的サービスを投入するのでもいい。たとえば、復興のための工事なら、建設会社にもお金が入るし、その社員や、日雇い労働者などにもお金が入るだろう。その工事現場周辺でみんなが食事したりお酒を飲んだりすれば、食堂や居酒屋でももうけが増える。その店で働く人たちのボーナスも増えるかもしれない。するとその人たちが、また商店街の他のお店で買い物する。建設会社の人たちは、それぞれの地元のお店でも、前よりたくさん買いものするだろう。すると、そのお店の人たちも……というふうにして、景気が刺激され、経済が成長していくわけだ。

これが「財政出動で経済成長」のシナリオだ。

そして、経済成長すれば、自然に税収も増えるわけだ。

★さらに詳しく知りたい人に

2010年度の名目GDP約479兆円の内訳

民間最終消費支出 280兆8049億円
民間住宅支出 12兆7508億円
民間企業設備投資 65兆7641億円
政府最終消費支出 96兆209億円
公的固定資本形成 20兆1345億円
純輸出 5兆4658億円
合計 約479兆円

◆財政出動で財政赤字は減らせる

しかし、政府の支出を増やせば、当然、政府の借金の総額=累積債務残高も増える。「財政赤字を削減しろ!」と激しく攻撃する人たち(「財政均衡論者」たち)もいるもんだから、これがなかなか実行できない。

でも本当は、政府の支出を増やしたからといって、財政が悪くなるとは限らないんだ。その理由を説明しよう。

政府が財政出動すると、経済が成長する。政府が10兆円出したとすると、経済成長はその10兆円の何倍にもなる。なぜなら道路工事を例に挙げれば、建設会社の人たちが使ったお金を、今度は食堂の人たちが使い、それを周辺の商店街の人たちが使い、それをまた……というように、お金は何回も使われるからだ。政府の借金が10兆円増えても、経済成長が30兆円あれば、財政バランスは良くなった、といえるんだ。

なぜなら「財政赤字」を考える場合、問題なのは金額よりも、借金とGDPとのバランス=「債務残高の対GDP比」だからね。

★さらに詳しく知りたい人に

【「消費性向」と「乗数効果」】

可処分所得のうち、消費にあてられる額の割合を「消費性向」と言う。仮に、政府が国民に1万円配布したとする。そのうち、8割が消費され、2割が貯蓄される場合には、「消費性向は0.8」と言う。1万円のうち8000円を使った場合、その8000円を受け取った人も、また消費する。8000円の8割を使うと、6400円になる。その6400円を受け取った人も8割を使うと、5100円になる。この5100円を受け取った人も8割を使うと、4100円。お金は、このように何度も何度も繰り返し使われるため、はじめに政府が支出した金額以上の経済効果が生まれるんだ。これを「乗数効果」と言うよ。

★さらに詳しく知りたい人に

【財政出動による財政赤字の減少を計算してみよう】

政府の財政赤字が1000兆円だとする。10兆円を財政出動すれば、財政赤字は1010兆円に膨らむ。でも、この10兆円が消費性向0.8(上記コラム参照)で1年間に5回消費されたとすれば、GDPは33.6兆円増える。GDPが450兆円だとすれば、450兆円+33.6兆円=483.6兆円となる。もともとの政府の債務残高の対GDP比は、1000兆÷450兆=222%10兆円を財政出動した場合の政府の債務残高の対GDP比は、1010兆÷483.6兆=209%。こうして、財政出動によって債務残高の対GDP比が減らせる。つまり、財政赤字が減らせるんだ。

◆財政出動で未来を開こう

この財政出動としての支出を何に振り向けるか、というのももちろん大事なポイントだね。どうでもいいハコモノなんかつくって終わりにするんじゃもったいない。せっかくだから、未来につながることに投資をしなきゃね。

東日本大震災の復興や再生可能エネルギーの事業化・普及は、投資先として最適なんじゃないだろうか。地域の再生にも、原発のない安全な暮らしを取り戻すためにも、持続可能な社会のためにも、エネルギー自給のためにも役立ち、そのうえ、景気対策にもなる! 政府はもっとドカンと支出して、震災復興と再生可能エネルギーへの転換を全速力で進めるべきだとボクは思うね。

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