TPPのこと

第3章 TPPに入るとどうなる?

◆1.日本の法律が日本人を守れなくなってしまう

TPPに入ると「関税」を撤廃するだけじゃなく「非関税障壁」も撤廃しなくちゃならない。これが一番の問題だ。ところで「非関税障壁」とは?

「関税」があると値段が高くなってモノが売りにくくなる。これはモノを売りたい人にとっては「障壁」つまり邪魔モノだね。

外国にモノを売りたい人にとって、「関税」以外の邪魔モノが、すべて「非関税障壁」になる。

例えば、牛肉の月齢制限。

BSE(牛海綿状脳症。いわゆる狂牛病)の牛肉が輸入されるのを防ぐために、日本政府は20カ月齢以下の牛しか輸入しないと決めている(※現在アメリカの要求によって30カ月齢への制限緩和が検討されている)若い牛ほどBSEにかかっている可能性は低いからだ。

しかし、この月齢制限は、アメリカの肉牛業者にとっては、明らかに邪魔モノだ。それがなければ、何歳の牛だって自由に売れるんだからね。

つまり、牛肉の月齢制限は典型的な「非関税障壁」だということになる。

全米肉牛生産者協会(NCBA)は、この月齢制限撤廃を日本のTPP参加の条件にするよう、アメリカ政府に要求しているよ。

でも、牛肉の月齢制限は、日本国の政府が、日本国民の健康を守るためにわざわざつくった制度だ。それが、外国企業の都合によって勝手に変更されてしまうというのは、大問題だよね。

TPPに加盟するということは、そういうことなんだ。

せっかく日本政府が日本国民を守るためにつくった制度や法律、規制などが、すべてなし崩しにされかねない、ということ。

それぞれの国の法や規制以上に、外国企業の利益の方が優先される、そんな社会がやってくる、ということ。

国民が選挙で選んだ代表によって法律がつくられ、実行されていくという「国民主権」が崩れてしまう、ということなんだ。

自分たちがつくった法律が、外国によって勝手に変えられてしまう。これで「国」って言えるのかな?

そう考えると、TPP加盟によって、日本という国が崩壊してしまう、といってもいい。

これは、黒船来航とか、敗戦とかと同じくらい、歴史的な重大事なんだよ。

◆2.TPPで医療はどうなる?

アメリカは日本に対し「株式会社にも病院を経営させろ」とか「薬の値段を決める審議会の委員にアメリカの業界団体の代表を入れろ」などと要求してきている。

でも、アメリカの要求どおりに薬の値段を決めたら、とんでもなく高い値段になることは目に見えているよ。

例をあげて説明しよう。

ある32歳の男性は、民間の健康保険会社に毎年18万円の保険料を払っていた。

発疹ができたので医者に診てもらい、そこで40ドル(約3000円)支払った。医師が書いた処方箋を持って薬局に行くと、その塗り薬は100gで270ドル(約2万円)もする。

でも保険があるから大丈夫、と思いきや、保険を使ってもなぜか、199.84ドル(約1万6千円)もするという。

「持ち合わせがないから」と、屈辱と怒りに震えながらその場を去った男性は、その後インターネットで同じ薬をカナダから取り寄せることにした。

その値段は70ドル(約5千円)で、しかもサイズは2倍、送料込み、というものだった。

さらに、アメリカの国会では、外国から薬剤を購入することを違法とする法律が制定されようとしているという。

この例を見てもわかるように、アメリカの医療は、ひたすら患者から金を巻き上げることしか考えていないように見える。

アメリカでは保険に入っている人でさえ、大金の治療費や薬代を払わせられるし、保険に入っていない人も多い。というのも、アメリカには公的な保険がなく、民間の医療保険は高いので貧乏な人は保険に入れないんだ。国民全体の15%が無保険だ。

入院患者に支払い能力がないとわかると、路上に捨てていく病院すらある。

ある無保険の大工さんは事故で指を切り落として病院に行くと「薬指をつなげるのには1万2千ドル。中指をつなげるのには6万ドル。どっちにしますか?」と聞かれたという。そんな法外な額のお金が用意できなければ、つながるはずの指もあきらめざるを得ない。

そして保険に入っていないがために、医者にかかれずに死んでいく人の数は、年間4万4000人もにのぼるといわれている。

これがアメリカの医療の実態だ。

株式会社というのは営利を追求するための団体だから、株式会社に病院を経営させろ、というアメリカの要求は、医療にアメリカのような利益至上主義を持ちこめ、ということだ。

日本の健康保険制度は診療報酬と呼ばれるしくみに基づいて運営されているけれど、薬価は診療報酬の一環として定められているものだから、それが崩れるということは、健康保険制度そのものが崩れていくことにもなりかねないんだ。

TPPに加盟したら、日本の医療も、アメリカの利益至上主義医療と同じ方向へ、じわじわと進んでいくことになるだろう。

◆3.TPPで賃金が下がる

TPPに加盟すると「労働力の移動」も自由化される。
するとTPP加盟国からの労働者が日本にどんどんやって来る。

純粋な単純労働者まで無制限に受け入れるかどうかはわからないが、少なくとも外国人労働者が以前よりも増えることは確実だろう。

弁護士免許や医師免許、看護師免許などが参加各国と共通化される可能性も取りざたされているからね。

しかし決して景気がいいとはいえない現在の日本の状況では、仕事は限られている。限られた仕事の奪い合いで、日本人がはじき出され、失業者が増えることは想像に難くない。

日本人にとっては安いと思う給料でも、日本よりも物価水準の低い多くの国々の人々にとっては、大いに魅力的な額だ。安い給料でも働いてくれる人が増えれば、企業はわざわざ高い給料なんか払わない。こうして賃金の相場はだんだんに下がっていく。

ちなみにカナダ、アメリカ、メキシコの間で自由貿易協定NAFTAが結ばれたことでも大量の失業者が生まれて社会問題になっているんだよ(詳細は第5章参照)。

◆4.TPPでデフレが進む

安い給料で働く外国人が日本にたくさん入ってくれば、給料の相場が下がる。

給料が下がると、経済的余裕がなくなって、みんなモノを買わなくなる。

高いモノは売れないから、売ろうと思ったら、値段を安くしなくちゃならない。

こうして値下げ競争でデフレがさらに進んでいく。

デフレっていうのはモノの値段がだんだんに下がっていくこと。

その反対はインフレだ。

日本ではもう10年以上もデフレが続いている。

インフレが激しすぎても困るが、デフレも決していいことじゃない。

みんなが節約に一生懸命になり、お金を使わなくなると、世の中にお金が回らなくなって、経済が停滞してしまう。

モノが安くなっていいような気がするかもしれないけど、自分の給料も安くなるから結局買いたいものが買えないんだ。

みんながモノを買わなくなると、工業製品も売れなくなる。だから、農業だけじゃなくTPPで工業も衰退してしまうよ。

◆5.「政府調達」が自由化されると…

TPPの24分野の中には「政府調達」という項目がある。これはいわゆる公共事業だ。

政府や地方自治体は、たとえば学校を建てるとか、学校に入れるための机や椅子、あるいはパソコンを買う、などというときに、「入札」を行う。いろんな業者に予算を出させて、一番安い業者にやらせるんだ。

こういう公共事業の入札に外国企業が参加できるのは、これまではかなり高い金額の場合だけだった。それがTPPに加盟すると、この金額の制限が引き下げられる。

たとえば机やパソコンなど「物品」の場合なら、今まで2500 万円以上だった制限が、630 万円以上に引き下げられる。

公共事業は、地方経済の中で結構大きな部分を占めている。

その仕事を外国企業に持っていかれてしまうと、ただでさえ停滞している地方経済がますます弱っていってしまう。

あるいは、「建設」の場合なら今までは19億円以上だった制限が、TPPに加盟すれば、6億3千万以上になる。普通の家ではなく、公共の建物なんだから、6億以上かかる場合も多いだろう。

大震災の後の復興がなかなか進んでいかないけれど、TPPに加盟すると、この復興事業のほとんどを、外国企業に持っていかれてしまう可能性が高いんだ。

本来なら復興事業は震災で打撃を受けた被災地の経済を復興させる原動力になるはずなのに、それがただ単に外国企業を肥え太らせるだけで終わってしまうよ。

◆6.「金融」の国境がなくなると…

TPPに参加する!とアメリカが言い出してから、TPPの交渉分野に新たに追加された2項目がある。それが「金融」と「投資」だ。どうやらこの2つはアメリカにとって重要そうだね。

じゃあ、「金融」の国境を取り払う、ってどういうことだろう。

日本人が貯金や共済として預けたお金は、その金融機関の倉庫に眠っているわけじゃない。金融機関はそのお金を、他の人や会社に貸し付けたり、株や不動産などに投資したりする。これを「資金の運用」と呼ぶよ。倉庫に眠らせてたらお金は増えないけれど、運用すれば利子を取ったり、株の配当をもらったりできて、だんだん増えていくからね。

資金の運用は、できるだけ日本国内でされたほうがいい。日本国内でお金が回れば、日本の景気がよくなるからだ。とはいっても、金融機関は一番儲かりそうだと思うところに投資するから、その投資先が海外になることも当然ある。

でも、一定割合を除く大部分は日本国内で運用しなきゃダメ! と決められていたものがある。たとえば、「ゆうちょ」(郵便貯金)、「かんぽ」(郵便局の簡易保険)、農協共済。

こうした規制はやはり「非関税障壁」だ。

その決まりさえなくなれば、これらの莫大な資金がウォール街(証券会社や銀行が集中しているアメリカの街)に流れ込む。そして、ウォール街の連中の儲けが増える。これがアメリカの狙いだ。

でもその代わりに日本国内でお金が回らなくなるから、日本経済はますます停滞しちゃうよ。

◆7.「投資」の国境がなくなると

投資っていうのは、利益を得ること=つまり金儲けの目的で、株を買ったり、事業にお金を使ったりすること。投資を回収し(つまり使ったお金を取り戻し)、さらに、使った以上のお金を儲けることが目的だ。

外国企業が自由に投資できるようになるとどうなるか?

そのいい例が、カナダの食品加工会社だ。

アメリカとカナダは1989年に協定を結んで投資を自由化した。

その結果、10年も経たないうちに、カナダの食品加工業界はアメリカに乗っ取られてしまったといってもいい。

協定を結んでから、カナダからの農産物輸出は3倍に増えた。

でも、逆に農家の収入は24%も減ってしまったんだ。

一見産業が盛んになるように見える場合もあるけれど、もうかるのは大金持ちの投資家ばかりで、庶民はお金を搾り取られて、結局貧乏になっていくことがわかる。

投資の自由化は、大企業の利益を伸ばす反面、庶民の搾取につながっていく。

それこそがアメリカにとってのTPPの目的だといってもいいだろう。

◆8.投資家に国家が訴えられる

TPPには、「外国投資家が、投資先の国の政府を訴えることができる」というしくみがあって、ISD条項と呼ばれている。

もともとは、こんな紛争を解決するために考えられたしくみだ。例えば欧米企業が中東に投資して石油採掘会社をつくった。ところが、その会社が突然相手国政府によって国営化されてしまった(このようなやり方を「収用」と呼ぶよ。政府による没収、みたいな感じかな)。せっかくお金をかけて全部設備を整えたのに、儲けだけは全部相手国政府に持って行かれてしまうのでは、やってられない。こんな場合に相手国政府を訴えることができる権利を保障しよう、というのが、そもそもISD条項の主旨だったらしい。

ところが、そういう筋の通った訴えだけでなく、そのうちアメリカの企業は、相手国政府の規制などによって少しでも自分たちが不利益を被りそうになると「収用だ!」と言いがかりをつけて訴えるようになっていったんだ。

例えば、NAFTA(北米自由貿易協定)で実際に起こった例を見てみよう。

アメリカの企業メタルクラッド社は、メキシコで産業廃棄物を処理しようとした。環境の悪化を懸念する声が高まり、地元自治体は処理の許可を取り消した。するとメタルクラッド社は「収用だ!」としてメキシコ政府を訴えた。

裁定では、メタルクラッド社の訴えが認められ、メキシコ政府は1670万ドルもの巨額の賠償金を支払わされた……。

なんでもかんでも「収用だ!」とか、あるいは「外資系企業への差別だ!」とか言ってゴネてゴリ押しできるようになる可能性がある……それがISD条項の怖さであり、TPPのもっとも危険なところだ。

裁定を下すのは「国際投資紛争解決センター」という機関。これは世界銀行の下部組織で、世界銀行の総裁を勤めるのは歴代ずっとアメリカ人だ。だからアメリカ企業に都合のいい裁定を下しがちであることが指摘されている。しかも審理は一切公開されないうえ、一審制で、裁定に不服があっても上訴することもできない。

訴えられた国が負ければ、巨額の賠償金を払わされるだけでなく、場合によっては規制を変更させられる可能性もある。その規制が、環境保護のため、あるいは国民の健康や消費者の権利を守るための、正当な規制であっても、そんなことはまったく考慮されないんだ。

まだ決着のついていないこんな例もあるよ。

カナダのケベック州政府が芝の除草剤の販売・使用を禁止したところ、除草剤を販売するアメリカのダウ・アグロサイエンス社が、200万ドルの損害賠償を請求した。ダウ社の主張によれば、州政府の措置は単なる「予防原則」に基づくもので、科学的根拠が不十分であるという。

でも、でも、でも、「予防原則」に基づいて危なそうなものは規制する、っていうのは、きわめて真っ当なやり方じゃないのかい!? 環境被害でたくさんの生物が死んでしまったり、人々に健康被害が起きてからやっと規制する、っていうよりも、はるかにいいやり方だよね!? そういう真っ当な方法で国民の健康や環境を守ろうとする政府が、外資系企業から訴えられてしまうなんて、理不尽この上ないことだ。

国民や環境を守るための真っ当な規制が、外資系企業の利益に反するというだけの理由で訴えられ、それが変更されてしまったり、巨額の賠償金を払わされたりする(しかもボクたちの税金から)、そんな理不尽がまかり通る世の中をつくるのが、ISD条項だ。絶対に受け入れちゃいけないよ。

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