原発について

第3章 原発は安くて再生可能エネルギーは高い?

— 意図的に安く計算された原発コスト —

◆1.原発の電気は安くない

こんなに狭い地震大国日本に、54基もの商業用原子炉が続々と建設されてきた理由のひとつが、「原発は発電コストが安い」というものだ。果たして、本当にそうなのかな?

全国の電力会社十社でつくる電気事業連合会(電事連)が、2004年に公表した計算によると、電力1キロワットを起こすのに必要な経費は、水力11.9円、石油10.7円、原子力5.3円。これを見ると、たしかに原発のコストが一番安いことになってるね。

でも、これとは別の計算もいろいろある。電力会社が政府に提出した原子炉設置許可申請書には、電力会社が試算した実際の発電コストが書かれている。各発電所ごとにコストは違うが、安い発電所で8.91円、高い発電所では19.71円にもなる。これを全部足して平均してみると1キロワットあたり13.9円という高コストになっているんだよ。

また、大島堅一・立命館大国際関係学部教授(環境経済学)が実際にかかった費用を各電力会社の有価証券報告書から再計算したところ、原子力10・68円、火力9・90円、水力7・26円(一般水力3・98円、揚水53・14円)になっていた。原発は安くないどころか、火力を上回る一番の高コストだ。

さらに、注意しなければならないのは原発と必ずセットで建設される「揚水式水力発電」だ。揚水式発電とは何か、ここで説明しておこう。原発は一度稼動してしまうと、定期点検以外は昼も夜も一定の出力で運転し続けなければならない。けれども、電力消費は一定ではなく、昼間は多く、夜は少ない。そのため、夜間は電力が余ってしまう。それを生かすために、つくられるのが、揚水式水力発電だ。原発で余った電気を利用して夜のうちに山の上のダムまでポンプで水を汲み揚げ、電力消費の多い昼間に汲み揚げた水を落として発電する。この揚水式水力発電は、発電ロス30%、送電ロス 30%と極めて非効率なうえに、平均で6時間ほどしか発電できない。しかも、下から水を汲み揚げるのに使う電気の方が、発電する電気よりも多いというシロモノだ。

原発は、そんな揚水式発電とセットでつくられるのだから、コストも合わせて計算するのが妥当だ。「原子力+揚水」では1キロワット当たり、12・23円。こうして計算してみると、実は、国民にとっては最も割高なエネルギーであることが明らかだね。

しかも、この計算には、原発定期点検中のバックアップのために寝かせてある火力発電所の維持管理費は含まれていない。それに、政府の原発立地地域への補助金や毎日出続ける放射性廃棄物の処理費用や再処理費用、廃炉などのコストも含んでいないんだ。

原子力発電をすれば必ず放射性廃棄物が出てくる。それをどう処分するかということが、実際には何も決まっていない。高レベル放射性廃棄物は冷却のため30~50年間程度一時貯蔵し、最終的に地下300メートルより深い安定した地層の中に処分する必要がある。高レベル放射性物質の寿命には10万年を越えるものもあるんだ。10万年前といえばアフリカでホモ・サピエンスが誕生した頃だよ。そんな気の遠くなる時間、管理を続けるにはどれだけのエネルギーが必要になると思う? 間違いなく原発で生み出したエネルギーより遥かにたくさんのエネルギーを消費するはずだ。それに、そんな危険な廃棄物を受け入れてくれる自治体はどこにもありはしない。つまり、処分場が見つからないんだ。

さて、どうしようかということで、とりあえず始めたのが核燃料サイクルだ。使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出す。このプルトニウムを高速増殖炉で燃やすと、投入したプルトニウム以上のプルトニウムを取り出しながら発電できるというものだ。これで使用済み核燃料が利用できる、かと思ったが、ところが実際にはそううまくはいかなかった。高速増殖炉「常陽」は事故により停止。「もんじゅ」もナトリウム漏れ事故を起こし、10年以上停止の後、再開した途端に原子炉に燃料交換装置を落下させるという事故を起こし、再び停止。高速増殖炉が実用化できなければ、再処理施設でいくらプルトニウムを取り出しても意味がない。この何の役にも立っていない、高速増殖炉もんじゅをつくるために2.4兆円、六ヶ所村の再処理施設をつくるために2.2兆円という莫大なお金がつぎ込まれている。

さらに、原発は一度事故が起きれば甚大な被害が出る。その被害補償も費用に含まれていない。農業や漁業に対する補償、避難してもらった人に対する補償、放射性物質が原因で病気になった人への補償などで、一体いくらかかるのか想像もつかない。間違いなく桁違いに高コストのエネルギーだと言えるだろう。

◆2.高コストなほど得になる!?

本来なら、こんな高コストなエネルギーは経済的に割に合わないので使われないはずだ。それなのに電力会社が原発をやめたがらないのは、電気料金の仕組みの中に隠された理由があるからだ。

一般的には、モノの値段は需要と供給によって決まる。価格競争によって決まる、といってもいいだろう。そして、そこからコストを差し引いた分が会社の利益になる。だから通常、会社というものは、コスト削減に努力する。

ところが、地域独占の電力会社には競争がない。ではどうやって値段を決めたらいいか。そこで考え出されたのが、「総括原価方式」というしくみだ。原価=すなわちかかった経費に3%の利益を足したものが電気料金となる。原価には発電所や送電設備とその保守管理費用、燃料費、運転費用、従業員給与や営業所経費はもちろん、超豪華な社宅や超優雅に暮らせる福利厚生費などの費用もすべて含まれる。この仕組みだと原価をかければかけるほど、電力会社の利益は大きくなる。通常の会社が利益を出すためにコスト削減の努力をするのと逆に、電力会社は利益を出すため、コストを多く使おうとするわけだ。

原子力発電所というのは、1基建設するのに約5000億円、周辺施設まで合わせると1兆円近いコストがかかる。それも作り始めたら、まだできてもいないのに、料金にコストとして上乗せして良いことになっている。だから電力会社にしてみれば、利益を増やすにはどんどん原発を作った方がいい。

ちなみに東電の取締役の報酬総額は年間約7億円、平均では約3700万円、常務以上は年収7200万円。この高額報酬も公共料金として支払う電気代の中に含まれているんだ。

理不尽なことはまだまだあるぞ。電力会社は地域独占企業だから、宣伝しなくても、消費者は他の電力会社から電気を買うことなんかできない。それなのに毎年、莫大な広告宣伝費を使っている。

有価証券報告書によれば、2010年の東京電力の広告費は243億5700万円。全電力会社の広告宣伝費合計が884億5400万円。販売促進費が623億500万円。その他、普及啓発費や総務部のメディア対策費もあると言われている。さらに電気事業連絡会の広告費がある。こうした不要に思える広告宣伝費まで、総括原価方式によって、われわれ消費者が負担させられているんだ。

独占企業がこれだけ巨額な広告費を使う理由は何だと思う? コストを上げたいから、というのはひとつの理由だろう。でもそれだけじゃない気がする。率直に言って、これはメディアの買収費用だ、といえるんじゃないかな? 実際、原発に批判的な意見を持つ出演者がいると、電力会社や電事連が「スポンサーを降りる」と脅迫する行為が過去に何度もおこなわれてきた。

原発をつくると電力会社はもうかるから、原発をこれからも増やし続けたい。マスコミにとっては電力会社は莫大な広告費を使ってくれる大切なお客様だから、電力会社に都合のいい情報しか流さない。学者や研究者も電力会社から研究費を助成してもらっているので、原発は安全だ、クリーンだ、と話を揃える。そして原発を建てる企業や自治体が大儲けできるように、政府や官僚が後押しし、国策として原発を推進する。この「政府」「官僚」「電力会社」「マスコミ」「学者」の「原発ペンタゴン」(ペンタゴンは五角形の意)が結託してみんなで口裏を合わせ、原発安全神話と原発クリーン神話と原発安い神話をまき散らし、これまでずっと国民を煙に巻いてきたんだよ。

◆3.再生可能エネルギーにはお金がかかる?

原発は安い、と言う人たちは、再生可能エネルギーにはお金がかかる、と言う。でも、原発推進や維持のために使われるお金をもっと減らし、その分を再生可能エネルギーに投資すればいいだけの話じゃないかな? これまでに日本政府は各地の原発や六ヶ所村の再処理施設、敦賀のもんじゅも含め、原発関連に何十兆円、何百兆円もの莫大なお金をつぎ込んできた。そのお金はもちろんボクらが払った電気代や税金だ。2012年度の原子力関係予算は、原子力安全庁に移管される安全・事故対策費などを除くと、前年度当初予算(3934億円)比13%減の3405億円。あんな事故を起こし、全国で今たった3基しか原発が動いていないのに、今の政府は原発の予算をほとんど減らさず、これまでとほとんど同じ額で通してしまう腹づもりだ。これを大幅に減らして、再生可能エネルギーに回せばいいんだ。

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