原発について

第5章 再生可能エネルギーの可能性

— 日本には資源がたっぷり、技術力も十分 —

ここでは、再生可能エネルギーのさまざまな可能性について紹介するよ。

キミの目の前にエネルギーの新しい未来が、そして希望が、きっと開けてくるだろう。

◆風力発電

再生可能エネルギーの中で、最も伸びているのが風力発電だ。環境省がおこなった「2010年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によれば、風力発電の導入ポテンシャル(採取や利用に伴うさまざまな制約を考慮して絞り込んだ導入可能な量)は、陸上と洋上の合計で19億kW。全量固定価格買い取り制度(FIT)の適用を前提に、事業収支などを加味して計算したより現実的な計算「FIT対応シナリオ」によれば、風力発電は今後、陸上と洋上の合計で1億4300万kWの導入が見込めるそうじゃ。これは全国の発電設備総出力1億397万kW(2009年度、電気事業連合会調べ)の約70%に達する。特に、風力エネルギーが偏在している北海道と東北では、理論上は電力需要を風力だけで十分にまかなえるらしいぞ。

風力発電で問題となるのは、プロペラが回転するときに発生する低周波と、鳥がプロペラに衝突してしまうバードストライクだが、この問題を解決する風力発電機を秋田のメカロというメーカーが開発している。スパイラル・マグナスという風力発電機は、特殊な棒状のプロペラにすることによって、一般の風車の4分の1程度の低い回転数のため、風の音と区別がつかないほど静かで、鳥が衝突する危険性も限りなく低いんだ。

海の上は陸地よりも強くて安定した風が吹く。だから、洋上で風力発電すれば、同じ規模の陸上施設に比べ、1.5倍以上の発電量が見込めるんだ。洋上風力には海底に直接敷設する「着床式」と風車を海上に浮かべる「浮体式」の2種類がある。九州大学のグループは1ユニットで原発1基分=100万kWの発電が可能、しかも低リスクで低コストな浮体式洋上ウインドファームを研究開発しているよ。

日本の領土面積は約38万km²で世界第61位と狭いが、200海里の排他的経済水域まで含めれば約447万km²となり、世界第六位の海洋大国なんだ。広大な海を利用すれば、いくらでも必要なだけの電気をつくることができるんじゃないかな。

風力発電のコストは、現在、日本では1kW当たり10~14円とされているが、米国では4円程度まで下がっている。自然エネルギー機器はテレビやパソコンと同じように量産されればされるほど安くなるから、風力発電も普及が進むほどコストも安くなるだろう。

◆太陽光発電・太陽熱発電

太陽光は日本の土地の5%で、日本の電気需要をまかなえるだけの潜在力を持っているが、夜間は発電できないのが欠点だ。しかし、信州大の樋上照男教授が開発した「光電気化学蓄電池」は、太陽光で発電する「太陽電池」と、発電した電気を蓄えておく「蓄電池」の両方の性質を持っている。炭素分子「フラーレン」の、太陽光エネルギーを内部に閉じ込め長期間保存できる性質を利用したものだ。

もう一つ、次世代太陽電池として期待されているものに東京大学の荒川泰彦教授とシャープの研究グループによって研究・開発されている「量子ドット太陽電池」がある。この太陽電池は量子ドットを敷き詰めた面を積層して厚さを数~10マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルにし、両面に電極を取り付け、量子ドットの配置を最適化することで従来の太陽電池では素通りする赤外光も電気に変えることができる。現在20%程度にとどまっている太陽電池の変換効率を75%以上に引き上げることが可能になるそうだ。

さらにすごいのが、金沢工大工学部の南内嗣、宮田俊弘の両教授が開発した、銅板と亜鉛を組み合わせた低コストの新型太陽電池だ。従来のシリコン製に比べ100分の1の費用で製造できるらしいぞ。従来のシリコン製太陽電池の基板は直径15㎝の円盤状で製造に約8千円かかるの対し、この新型太陽電池の基板は数十円で作ることができる。だから、一戸当たり約300万円かかるとされる太陽光発電施設の設置費も大幅に抑えることが可能になるそうだ。

ただ、世界的には太陽光発電より太陽熱発電の方が主流になりつつある。太陽熱発電はレンズや鏡や反射板を用いて太陽光を集光し、その熱で水を蒸発させることで蒸気タービンを回転させ発電する発電方法だ。太陽光発電よりも導入費用が安く、夜間には溶解塩等を用いた蓄熱により24時間の発電が可能なんだ。

太陽熱発電で効率的に発電するには、日照時間の長い広大な土地に大型の設備を建設した方がいいんだが、海上に建設することもできるから、南の海を活用してみたらどうだろう。

2010年、グーグルは太陽熱発電所の建設・運営プロジェクトに約140億円を出資している。グーグルは通算して自然エネルギー事業に3億5000万ドル以上も出資しているんだ。世界最先端、しかも高収益の会社が自然エネルギーに大金を投資をしているということは、これは決してオモチャなんかじゃないという証拠ではないかな。

◆バイオマス発電

バイオマス発電には2種類ある。一般家庭などから出る生ゴミをメタン発酵させ、そこから出る可燃性ガスを使った発電方法と、材木を燃やす発電方法だ。日本最大のバイオマス発電所は川崎バイオマス発電所で、首都圏にある製材所から出るおがくずや建設廃材(18万トン/年間)を燃料とし、3万3000kWを発電している。

日本は国土面積3,779万haに対して森林面積は2,510万ha、国土の67.3%が木で覆われる森林率世界第2位の「森の国」だ。林野庁によれば平成20年(2008年)度の全国の森林資源の総量は443憶1744万m3。その木々は、当然、毎年成長する。仮に、年に1cm3ずつ全ての木が成長するとして、木々の増加分は年間4432万m3にもなる。

海外から安い木材を調達するようになって、日本の林業は壊滅状態だ。そのため、手入れをする人がいなくなり、緑の砂漠と言われている。バイオマス発電をエネルギー政策の一つの柱として、それに国家予算をつければ、国内林業の復興と森林保全を同時に進めることができるんじゃないかな。

また、海藻から取り出したメタンガスで電気を起こすバイオマス発電もある。海岸に大量に漂着し環境問題になっているアオサや、漁場整備のために刈り取られるコンブなどの海草を回収。破砕して微生物により分解し、このとき発生したメタンガスを使いガスエンジンで発電する仕組みだ。東京ガスが新エネルギー・産業技術総合開発機構と共同で事業化を進めていて、すでに9.8kWの発電用ガスエンジンを備えた試験プラントで1日当たり約1トンの海藻を分解し、一般家庭の半月分の電気を賄える約20~30m3のメタンガスを安定的に取り出す技術を確立しているよ。

資源エネルギー庁の資料によれば、日本の太陽光と風力、バイオマスエネルギーを合計した物理的賦存量(理論的に導き出された資源の量)は約12兆kWもある。これは、今ある原発の総発電電力量の40倍にも当たるんだ。

◆地熱発電

24時間安定的に発電でき、天候にも左右されない、燃料も必要ない地熱発電は、原発に代わるベース電源(電力消費の変動に対応するのでなく、常に一定出力で動かし続けるタイプの電源)として期待されている。日本は火山大国だから、あちこちで温泉が湧いてるだろう? 温泉が湧いているとこならどこでも設置可能なんだ。世界的に有名な環境学者レスター・ブラウン氏が日本に来たとき、「日本は地熱発電で国内電力の半分をまかなえるのに、どうして使わないんだ」と言っていたよ。日本の地熱資源量は米国、インドネシアに次いで世界第3位。「2010年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によれば、地熱発電の賦存量は設備量にして3400万kW、導入ポテンシャルは設備量で150~1050万kW、年間発電量で92~650億kWと見積もられている。

初期導入費用は少し高めだけれど、燃料を輸入する必要がないから、発電コストは安く、近年の実績では1kWあたり8円~9円。九州電力の大分県にある八丁原発電所では、1kWあたり7円だ。

世界各国の地熱発電に対して日本のメーカーは積極的に開発に関与していて、トップメーカーの富士電機の世界シェアは4割、これに三菱重工業、東芝を加えた3社で世界シェアの7割を占めている。設備稼働率も70%以上と極めて高い。

ところが2010年の日本の地熱発電容量は約54万kWで、地熱資源量のわずか2.3%に過ぎない。その背景にある問題の一つが環境規制だ。国内の地熱資源のうち国立公園などの保護地域以外にあるのは2割弱に過ぎない。でも、そのあたりは工夫次第で何とでもなるような気もするよね。

もう一つは、温泉業との競合だ。地熱発電は温泉業者と資源を奪い合う形になってしまう。しかし、温泉熱発電という新技術も登場しているんだ。温泉熱発電は源泉から引いた湯の熱で媒体(代替フロンやアンモニアなど)を気化させ、その蒸気でタービンを回して発電する。お湯は適度に冷やされ、そのまま浴用に使える。通常、高温の源泉はお湯を冷まして浴用にするので、温泉熱発電は冷却と発電の一石二鳥の効果がある。お湯は60度以上であれば発電可能らしいよ。これなら温泉業と両立できるだろう。

◆マイクロ水力発電

マイクロ水力発電の利点は、ダムや大規模な水源を必要とせず、小さな水源があれば、比較的簡単な工事で発電できることにある。そのため、山間地、中小河川、農業用水路、砂防ダム、浄水場、下水処理場、工場排水、高層建築物など、さまざまな場所に設置可能だ。洗面やトイレの洗浄水で発電する製品も実用化されているよ。

中小水力発電のエネルギー資源量は、河川で1400万kW、農業用水路で30万kW。大型水力発電のように生態系を脅かす心配も少ないし、太陽光発電や風力発電のように天候による変動が少ない。ある程度の水量があれば、基本的にどこにでも設置可能だ。ただし、山間や河川の水源を利用する場合は、落ち葉やゴミなどの除去、増水時の調整などの継続的なメンテナンスが必要となる。だから雇用にも結びつくよ。

◆海を利用した発電

日本は447万km²もの広大な排他的経済水域を持つ海洋大国だ。この海を活用した発電技術も開発が進んでいるよ。

◇波力発電

波力発電は、文字通り波のエネルギーを利用する発電だ。日本の海岸線の全長は約34,386km、全海岸線に打ち寄せる波エネルギーは国内総発電量の3分の1にのぼる約3600万kW。イギリス、ノルウェーと並んで世界で最も波エネルギーの豊かな国の一つなんだ。

神戸大学の神吉博教授のグループが研究・開発した「高効率ジャイロ式波力発電システム」は、コマのようなジャイロにより、波の上下動を回転運動に変換し発電する。波力発電は波があれば24時間発電できるし、天候にも左右されない。単純な構造なので耐久性が高く、メンテナンスも容易で低コスト。9m×15mの発電機を海に浮かべて回すだけで、同一面積から風力の5倍、太陽光の20~30倍のエネルギーが取り出せると言われているよ。

◇海流(潮流)発電

海には常に潮の満ち引きがある。それに、伊豆半島や房総半島の鼻先に黒潮という膨大なエネルギーが恒常的に流れている。黒潮の幅は約100kmで、最大時速は最大で4ノット(約7.4km/h)。このエネルギーを利用するのが海流発電だ。

ベンチャー企業ノヴァエネルギーが研究・開発している海流発電所は、長さ120mの垂直に延びた大型のブイに500kWのプロペラ4基を取り付けたもの。この装置を200ユニット、2km四方の海洋に設置する事により40万kWの発電プラントを建設することが可能だそうだ。

◇海洋温度差発電

佐賀大学の上原春男教授のチームが発明した海洋温度差発電は、海洋表層の温水と深海の冷水の間の熱の移動からエネルギーを取り出して発電を行う仕組みだ。表層海水の温度(25~30度)で容易に揮発するアンモニアの蒸気でタービンを回し、深度1km程の深海から冷水(5度前後)を汲み上げ、その冷水によってアンモニアは液体に戻るというサイクルが続く。

この海洋温度差発電の副産物は食料問題や水問題にも貢献できるらしい。栄養豊かな深層水を利用して、人工的に漁場を創り出すことができるし、発電で利用した温海水を蒸発させ、冷海で凝縮させれば真水が製造できる。このシステムは日本のゼネシス社がプロモーターとなって、インドや中東、太平洋諸国に実証実験プラントを建設する予定なんだ。

◆マグネシウム循環社会

まだ実用化はされていないものの、期待できる次世代の技術も紹介しておこう。東京工業大学の矢部孝教授が提唱しているのが、マグネシウム循環社会だ。

海には、ほぼ無尽蔵(1800兆トン)にマグネシウムがイオンの形で含まれている。海水を濃縮すれば塩化マグネシウム(にがり)が得られるが、この塩化マグネシウムは加熱すると水が除去され、酸化マグネシウムになる。この酸化マグネシウムに太陽光励起レーザーを照射すると純粋なマグネシウムになるんだ。マグネシウムは、銀白色の輝きを放つ軽い金属で、火を付ければ激しく燃える。マグネシウム1kgあたりの発熱量は25MJ(メガジュール)。石炭は30MJなので、若干低い程度だ。つまり、このマグネシウムを火力発電の燃料にできるんだ。今の火力発電所の施設をそのまま利用できるという点でも便利だよ。

燃やしたマグネシウムは酸化マグネシウムになるけれど、太陽光励起レーザーを照射すると、再びマグネシウムに戻る。太陽光励起レーザーとは、簡単に言えば、太陽光を集めて6000度以上の超高温を生み出す装置だ。マグネシウムは650度以下では発火しないから、常温で保存でき、10年以上の貯蔵も可能なんだ。

また、この太陽光励起レーザーによって海水を淡水に変えることもでき、副産物としてのマグネシウムを燃料とすることができる。21世紀は水の世紀と言われるほど、世界中で深刻な水不足に陥っている。マグネシウム循環の技術が実用化され、世界に広がることは、世界を救うことになるかもしれないね。

◆世界を救う救世主-オーランチオキトリウム

日本のエネルギー消費のうち、電力の占める割合は約25%に過ぎない。実はエネルギー消費の約75%は、化石燃料が直接使われている。だからエネルギー問題を考えるなら、この化石燃料の代替エネルギーを考えないと大して意味がない。化石燃料の代替エネルギーとして最も期待できるのが、藻から石油をつくる技術なんだ。

筑波大の渡邉信教授の研究チームが海水や泥の中などにすむオーランチオキトリウムという単細胞の藻類が極めて高い油の生産能力を持つことを発見した。球形で直径は5~15マイクロメートル。水中の有機物をもとに、化石燃料の重油に相当する炭化水素を作り、細胞内にため込む性質がある。これまで石油を生み出す藻としてはボトリオコッカスが有望だとされてきたが、同じ温度条件で培養すると、ボトリオコッカスに比べて10~12倍の量の生産能力があるということがわかった。渡邉教授の研究チームの試算では、深さ1mのプールで培養すれば、面積1ヘクタールあたり年間約1万トンの石油を作り出せるそうだ。つまり、約2万ヘクタールのプールで培養すれば、日本の石油輸入量に匹敵する生産量になるんだよ。

渡邉教授によれば、大規模なプラントで大量培養すれば、自動車の燃料用に1リットル50円以下で供給できるようになるそうだ。1000億円位の予算があれば、最短6年~10年位で日本の全石油需要をまかなえるらしいぞ。難点と言えば、沖縄の海で発見された藻なので、水温が15度以上でないと繁殖しないこと。しかし、オーランチオキトリウムは光合成せず、水中の有機物を吸収して増殖するため、下水処理場と組み合わせて水温を管理し、水を浄化しながら石油を生産するプラントをつくれば一石二鳥だと思うんだけど、どうだろう?

石油と言っても正確にはバイオ・オイルなので、枯渇することなく持続可能。何より石油を巡って血で血を洗う争いから人類が解放されることは、歴史的な大転換になるんじゃないかな。

それに、国内でエネルギー資源を調達できれば、外国へエネルギー輸入のため支払っている約23兆円を国内で循環させられるようになるから、経済効果も抜群なはずだよ。

サルでもわかる脱原発を急ぐわけ20130321

サルでもわかる「脱原発を急ぐワケ」

著者:安部芳裕+Project99%
安部芳裕プロフィール

作家。ソーシャルアクティビスト。著作に「だれでもわかる地域通貨入門」「ボクらの街のボクらのお金」「金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った」「日本人が知らない恐るべき真実」「金融崩壊後の世界」「国際銀行家の地球支配/管理のしくみ」「みんなが幸せになるお金の話」「原発大震災の超ヤバイ話」「原発震災後の日本の行方~知られざるTPPの真実」などがある。持続可能な自立型経済の構築をテーマに情報を発信している。

イラスト:安田美絵(Luna Organic Institute)
http://luna-organic.org

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