増税について
— 景気回復にも不可欠な「累進課税」 —
◆「金持ち優遇税制」をやめないと税収も増やせない
GDPが上がれば自動的に税収も増える、というのを3章で話したね。
今日本では税収が足りなくて困っているわけだけど、じゃあ、GDPは下がっているのかな?
消費税法が初めて成立した1988年、日本のGDPは380兆円、国税収入は50.8兆円あった。それからGDPは実は23%上昇している。にも関わらず、逆に国税収入は17%下がっているんだ。
あれれ? じゃあ、GDPをいくら増やしたってしょうがないじゃん! と思うのは早トチリだ。この原因は、税制が変わったことにある。
財界が政府に「税金を下げろ」と要求し、国民の知らないうちに政府はそれに応じてしまった。そしていつの間にか、金持ち連中が税金をあまり払わなくてもいい税制に変わってしまったんだ。
【1988年と2010年の国税収入の比較】
1988年 | 2010年 | |
法人税 | 18.4兆円 | 6兆円 |
所得税 | 18兆円 | 12.7兆円 |
相続税 | 1.8兆円 | 1.3兆円 |
消費税 | 0円 | 9.6兆円 |
その他 | 12.6兆円 | 7.8兆円 |
合計 | 50.8兆円 | 37.4兆円 |
上の表を見てほしい。所得税が2/3くらいに減っているし、法人税に至っては1/3にまで激減しているということがわかるね。
この間、大企業の法人税率も、高額所得者の所得税率も、下の表のように引き下げられている。
【1988年と2010年の税率の違い】
1988年 | 2010年 | |
大企業の法人税率 | 40.2% | 30% |
高額所得者の所得税率 | 60% | 40% |
相続税の最高税率 | 75% | 55% |
消費税率 | 0% | 5% |
企業が税金を払わなくなってしまった一方で、庶民の税負担は増えている。その典型が、誰もが買い物するたびに払う消費税だ。これが金持ち優遇の税制であることは1章で述べた通りだ。経団連などの大企業経営者(=金持ち)が、所得税ではなく消費税増税を支持する理由はそれなんだ。
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【庶民の税負担が増えた例-「配偶者特別控除」・「定率減税」の廃止】
2004年には配偶者特別控除の一部が廃止された。配偶者特別控除は夫の年収が約1231万円以下で配偶者の収入が少ない場合、税金を割引く制度だ。これが廃止されたために一世帯あたり年間4万~5万円ほど税負担が増えている。また、2007年には定率減税が廃止された。その結果、年収500万円の家庭(専業主婦の妻と子供2人)で年間約4.5万円、年収700万円の家庭で年間約8万円ほど負担が増えている。
◆中間層の厚みこそが景気回復の鍵
近年、一握りの金持ちの収入は増え続けている。下の表を見ると、そのことがよくわかるね。
【過去10年間の年収5000万円以上の会社員増加状況(単位 総額:億円)】
年 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 |
人数 | 8070 | 12133 | 13149 | 12468 | 12165 | 14566 | 16594 | 21270 | 19817 | 19982 |
総額 | 6227 | 9522 | 11039 | 10309 | 10510 | 12449 | 14137 | 18687 | 17822 | 17010 |
しかし、金持ちの収入が増えても、金持ちはその多くを貯蓄や投機に回すので、消費はそれほど増えないんだ。
一方、庶民の収入は減っていく一方だ。
【給与所得者の平均年収の推移】
[出典:国税庁 平成22年 民間給与実態統計調査結果]
サラリーマンの平均年収は1997年度の467万円をピークに、その後、低迷を続け、2010年度には412万円と55万円も下がっている。
過去15年間で正社員が660万人減少し、非正規社員が850万人増えた。非正規社員の給与は、フルタイムで働いても40歳平均で20万円を切っている。
年収200万円以下は給与所得者全体の四分の一を超え1270万人。年収300万円以下は4割を占め1840万人になる。
生活保護の受給者は2011年8月時点で約206万人に達し、過去最多を更新。
厚生労働省の「2010年国民生活基礎調査」によれば、全国民の中で生活に苦しむ人の割合を示す「相対的貧困率」が16%となった。これは国が貧困率を公表している1985年以降で最悪だ。格差社会の代名詞のような国、アメリカですら、相対的貧困率は15.1%。すでに日本は先進諸国で最も貧富の格差がある社会となってしまった。
モノを買う余裕=購買力のない人が増え続けているのだから、「モノを買おう!」という欲求=需要も増えるはずがない。つまり、庶民の収入が減った分だけ、社会全体の需要が減り、消費が減って景気が落ち込んでいる、というのが現在の経済状況だ。
大金持ちでも貧困でもない、ほどほどに豊かな中くらいの層=中間層。購買力のある中間層の厚みこそが、需要を増やし、景気を良くする要因だ。
だから、景気を回復するためにも、中間層の厚い、平等な社会をつくることが不可欠なんだ。そのためにも、金持ち優遇税制は改めなければならないし、金持ち優遇税制のひとつである消費税アップは絶対に許してはならない。
貧富の格差が進んでしまった今の日本にとって必要なのは、その格差を減らすための税制=金持ちからより多くの税金を取る「累進税」の強化だ。今より累進的だった1988年当時の税制に戻せば、それだけで60兆円以上の税収が見込める。庶民の負担を増やすやみくもな消費税増税ではなく、累進課税の強化こそ、いまの日本に必要な方策なんだ。
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【大企業優遇の「輸出戻し税」】
消費税は国内の制度なので、外国に輸出する際は、消費税を取ることができない。けれども国内で製造する場合、部品などの仕入れの際には消費税を支払っている。国内で販売する会社なら、払ったぶんの消費税を、売るときの消費税で取り戻すことができるけれど、輸出する企業はそれができない。その分、国が仕入れ原価の消費税分を還付しよう、という制度が「輸出戻し税」制度だ。例として、自動車会社が300万円の自動車をつくるのに、100万円の部品を仕入れる場合を考えてみよう。
◇国内で販売する場合(名目上)(単位:万円)
税込売上 | 仕入れ | 受取消費税 | 支払消費税 | 納税額 | 利益 | |
部品工場 | 105 | 5 | 0 | 5 | 100 | |
自動車会社 | 315 | 105 | 15 | 5 | 10 | 200 |
◇海外へ輸出する場合(名目上)(単位:万円)
税込売上 | 仕入れ | 受取消費税 | 支払消費税 | 納税額 | 利益 | |
部品工場 | 105 | 5 | 0 | 5 | 100 | |
自動車会社 | 300 | 105 | 0 | 5 | -5 | 200 |
自動車会社が国内で販売した場合、1台の自動車につき消費税を10万円国に納めることになる。一方、輸出する場合は消費税を納める代わりに、5万円の輸出戻し税を還付される。この制度は、本来ならば、誰も得をしたり損をしたりするものではないが、問題は自動車会社のような大企業と、部品工場のような下請け企業の間に圧倒的な力関係の差があることだ。
現実には、大企業はコストカットという形で、下請け企業に消費税分の負担を押し付けているケースがとても多い。
◇海外へ輸出する場合(実際には)(単位:万円)
税込売上 | 仕入れ | 受取消費税 | 支払消費税 | 納税額 | 利益 | |
部品工場 | 100 | 4.8 | 0 | 4.8 | 95.2 | |
自動車会社 | 300 | 100 | 0 | (名目上は)4.8 | -4.8 | 名目上 200実際は204.8 |
その結果、下請け企業は上の表のように利益を圧迫され、大企業は「輸出戻し税」という余剰利益を得ることになる。まるで輸出補助金のようだね。
経団連加盟企業など輸出で儲けている大企業はこの「輸出戻し税」で大いに潤っている。
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【下請け企業に苛酷な消費税】
大企業が「輸出戻し税」で潤う一方、苛酷な状況に置かれているのが下請け企業だ。大企業に非情なコストカットを要求され、消費税分は自腹を切って納めることも多い。仮にそうでないとしても、自転車操業の中小・零細企業は、手元にある資金はすぐ使ってしまう。消費税は国からの預かりものだといっても、年に1度の納税時には、もう手元に残っていないという事態も起こる。しかも、消費税はたとえ赤字でも払わなければならない。資金繰りの苦しい中小・零細企業にとって、これほど過酷な税はない。2010年度の消費税滞納額は約3400億円。国税全体の滞納額の半分を占める。それに、もし滞納すれば年14.6%もの延滞税率が課される。消費税が支払えないために倒産・廃業した中小・零細企業、自死を選んだ経営者は決して少なくない。
日本は99%以上が中小・零細企業だ。消費税率が上がれば、中小・零細企業がバタバタ倒れ、失業者が街にあふれ、消費はますます低迷する。消費のさらなる増税は、自らの首を絞める世紀の愚策だ。
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【「法人税」・「法人事業税」の問題点】
法人税は企業の利益に課税する税制で、決算で赤字になると、法人税も法人事業税も全額免除されると決められている。しかも一度赤字決算が出ると、7年間はその赤字を繰り越しできる。そのため、1度赤字を出せば、翌年から黒字に回復しても場合によっては6年間ずっと税金を納めずに済んでしまう。中小企業に対して貸し渋り・貸しはがし(強引で悪質な借金の取り立て)をおこなってきた三大メガバンクグループの6銀行(みずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ信託銀行、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友銀行)など、1998年度から2007年度までの10年間、法人税をまったく支払っていないのだ。
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【法人税で税収アップを】
新党日本代表の田中康夫議員によると、約3600にのぼる上場企業の中で、国税の法人税、地方税の法人事業税とも1円も納めていない企業が全体の7割を超えているという。東京商工リサーチによれば、日本の企業262万社のうち、法人税を納めている企業はわずか25%。この原因のひとつは上記のような税制上の問題だが、もうひとつの問題は、もちろん長引くこの不況だ。税収アップを目指すなら、法人税もしっかり取りたい。だからこそ景気を回復させ、企業を黒字に転換させることが重要だ。そのためにも景気を冷え込ませる消費税アップは避けなければいけないんだ。